LaTeXで論文を書いたことがある人なら、この時間に覚えがあるはずです。
書きたい議論は、もう頭の中にあります。なのに実際に手が動いているのは、閉じ忘れた括弧を探す作業と、Undefined control sequence が指す行番号を追う作業と、パッケージ同士がぶつかった数百行のログを上から読み下す作業です。一文字直してビルド。通らない。また直してビルド。気づくと三十分が経っていて、本文は一行も進んでいません。
TeX64の自律執筆機能は、この往復をソフトウェアの側に引き受けさせるためのものです。本日、macOS版・Windows版の双方で正式機能として提供を開始しました。
プロジェクト全体を読んでから書く
多くの文章生成が失敗するのは、文脈を持たないまま書き始めるからです。手元のファイルの、カーソルの周り数十行だけを見て書かれた文章は、その論文の記法とも、既に定義したマクロとも、参考文献の書き方とも噛み合いません。
TeX64のAIは、書き始める前にプロジェクトを読みます。分割された各 .tex ファイル、プリアンブルで読み込んでいるパッケージ、自分で定義したコマンド、.bib の参考文献、そして直前のビルドが吐いたログ。すでにその文書の中で成立している約束事を踏まえたうえで、続きを書きます。
通る状態になるまで、一続きで進む
ここが今回のリリースの中心です。
従来、AIにできたのは「それらしいコードを出す」ところまででした。それが通るかどうかは人間が確かめ、通らなければ人間がログを読み、人間が直していた。結局、往復は残ったままです。
自律執筆機能は、その先まで進みます。文章と数式を書き、ビルドし、エラーが出れば原因を特定して修正し、もう一度ビルドする。一つの指示に対して、文書が通る状態になるまでを一続きの作業として実行します。人間が介入するのは、その結果を見て判断するときだけです。
勝手に書き換わることはない
自律的に進むと聞いて、多くの人がまず心配するのはこの点だと思います。私たちも同じです。
TeX64が生成した編集は、必ず差分として提示されます。適用されるのは、利用者がその差分を見て承認したあとです。どの範囲が、どう変わるのか。それを確認しないまま原稿が書き換わることはありません。ビルドは手元のTeXディストリビューションで走り、プロジェクトのファイルはローカルに置かれたままです。
私たちが引き受けたかったのは、判断ではなく手数のほうでした。何を主張するか、どの証明を採るか、その段落が必要かどうか。そこは書き手の仕事として残しておくべきものです。組版の都合と付き合う時間だけを減らして、考える時間をそのぶん返す。この機能で目指したのは、そういう分担です。